【変わる覚せい剤使用者】第2回 覚せい剤乱用者は「治る」のか 治療法の転換、そして進歩(全3回)

「ダメ。ゼッタイ」や「人間やめますか…」などインパクトの大きいフレーズは確かに予防には向いているが治療の実状とは一致しない。

山下祐司| Photo by Getty Images Yuji Yamashita|シリーズ:変わる覚せい剤使用者

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覚せい剤精神病の恐怖

覚せい剤2
廃人への道を進んでゆく
【写真:Getty Images】

 依存症とともに覚せい剤が原因となる病気に、幻覚や被害妄想などが出る覚せい剤精神病がある。

 合川医師の調査によると覚せい剤精神病を発症した患者のうち、25%は乱用を始めてから1年以内に幻覚や妄想を経験している。

 幻覚や妄想が出現までの期間は平均2.7年だった。覚せい剤を5年以上使い続けると治療しても精神病が後遺症として残るケースも少なくない。

 また、使用を繰り返していると覚せい剤精神病が出やすくなる。覚せい剤を多量に使用した時だけでなく、少量でも幻聴が聞こえたり、妄想があらわれる。

 さらに、覚せい剤を使わずにいても飲酒や極度の疲労、心理的なストレスを感じたときにスイッチが入り、幻覚などの精神病症状が出ることすらある。

 覚せい剤に依存しはじめると不眠や食欲不振、無気力になるだけではなく、性格が変わり人間関係が壊れていく。

 怒りやすくなり、急に怒りスイッチが入る。落ち着きはなく、日常的に発生する音に敏感になり、自分になにか降りかかるのではとあらゆることを疑う。

 常に誰かに監視され、狙われていると勘違いして自分を監視する隠しカメラ探しに熱中することもある。物がなくなるとすぐに盗まれたと誰かを執拗に疑う。

 奥さんや彼女の人間関係に嫉妬し、浮気を疑い執拗な暴力を繰り返す。そして、周りにだれもいなくなるーー。

「一般的には依存傾向が強くなると、精神病症状が出てきますが、数回で幻覚が見える逆のケースもあります。

 長期間使っていると覚せい剤をやめて何年も経っているのに幻聴や周囲から見られている感じなど精神病症状が残ります。

 ただ後遺症にまで発展するほど覚せい剤中毒になっている人の割合は減ってきている印象です」

 幻覚や妄想は抗精神病薬で治療できるが、覚せい剤の依存症を治す特効薬は存在しない。その治療は心理社会的な方法が中心になる。

 以前は問題点を指摘して間違いを認めさせ、一度自我を砕き改心させる対決技法がとられていたが、実際はうまくいかなかった。

 患者が怒り、医師の言うことを聞き入れず関係が破綻して治療にならないことも多かったという。

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