糖尿病治療に新たな一歩 インスリンを分泌する細胞「バンク」を体内に作製
インスリン注射から解放される? 体内に作製したβ細胞を供給してインスリンを埋め合わせるという挑戦的な研究が発表された。
スポンサーリンク世界中で人類を苦しめる糖尿病。血糖値を下げるインスリンを分泌する脾臓のβ細胞が自分の免疫システムなどで破壊された結果起こるものを1型糖尿病と呼ぶ。
子どもや若い人の発症が多く、病状の進行も急速に進む。316万人を越える糖尿病患者がいる日本での1型糖尿は5%ほどだと考えられている。
1型糖尿病の治療法は現時点ではインスリンを注射するしかない。しかし再生医療の進歩によって多能性幹細胞や胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から脾臓β細胞を作製し、この細胞を移植する研究が進んでいる。
しかし糖尿病では、もとの膵臓のβ細胞に加え、新たに作製し移植した細胞も破壊されるため、失われたβ細胞を継続して補充できることが望ましい。
そこでハーバード大学のチャオ・ジョウ医師らは、β細胞のもとになる細胞を多く含む胃および腸に着目した。
この細胞はそのままなら胃の細胞になるが、“細工”を加えることで細胞の運命を変え、インスリンを分泌できる膵β細胞に再プログラムできないかと考えた。
遺伝子組み換え技術を使って 3つの遺伝子Ngn3とPdx1、Mafaのスイッチを胃や腸でオンにした。
実験を重ねた結果、胃前庭部の細胞がもっとも効率よくインスリン分泌細胞へと再プログラムできることがわかったという。
またデータ解析から、胃前庭部の細胞が脾臓β細胞と分子および機能レベルで非常に類似していることも判明した。研究成果は「セル・ステムセル」で2月18日に公開された。
ジョウ医師らは、この遺伝子組み換えマウスから胃や腸の細胞を取り出して培養し、小さな「胃」を作ってマウスの本物の胃に接合する形で移植。
その「胃」からインスリン分泌細胞を生成することに成功した。将来的にはこの人工的な胃を糖尿病患者に移植して、破壊されたβ細胞を自動的に補充しつづける治療法の開発を目指している。
この治療法では患者本人の胃の細胞から作った臓器を移植するため、拒否反応も少ないという。
患者をインスリン注射から解放する、この画期的な治療法に期待したい。
取材・文 岡 真由美
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