遺伝子の攪乱を巻き起こす? クローン桜“ソメイヨシノ”に潜む問題とは

開花が進むソメイヨシノに胸を躍らせている人も多い。しかし急激に広まったソメイヨシノが、野生の桜の生態系にある問題を起こしている。

山下祐司| Photo by Getty Images

スポンサーリンク

種を守る様々な取り組み

桜
儚さも魅力
【写真:Getty Images】

 一つの対策として考えられるのはソメイヨシノを植えるなら野生種の桜から物理的な距離を離す方法。山地や里山など市街地から離れた場所に残る野生の桜の周辺ではソメイヨシノの植栽をやめることだ。

 百年公園で桜の交雑を左右するソメイヨシノとヤマザクラの開花時期の重なりや咲く花の量、花粉の飛ぶ物理的な距離を調べた向井教授はこう語る。

「ソメイヨシノの花粉はどの個体もクローンなので、どの木から飛んできた花粉かわからないが、ヤマザクラの花粉は遺伝子が多様なので解析できます。

 危険なのはヤマザクラとソメイヨシノの開花時期が一致するとき。5、60m離れていても交雑は頻繁に起きます。約8割は半径300m内の花粉で種ができていました。

 300m離すと交雑は頻繁に起こりませんが、飛んでくる花粉がゼロではありません。あくまでもひとつの目安にすぎません」

 特定の種を守るため、半径1km内に交雑をする別種の栽培を規制している自治体がある。

 三重県桑名市では桜とおなじバラ科の希少種イヌナシを遺伝子撹乱から守るため2010年に「多度のイヌナシ自生地保護計画」を策定し、指定地から半径1㎞以内でのナシ属の植樹、栽培を規制している。

 エリアは人にほとんど影響を与えない山の中に設定されているのではなく、住宅や畑もある。半径2kmエリアには実際に別種のナシが栽培されているという。

 とはいえ、計画当初からその区域内にナシを栽培している人はいなかったそうだ。今後、区域内で食用のナシを栽培する人が現れたらーー。

 桑名市文化課の石神教親(のりちか)さんは「地域の方に協力を求めていきます」と答える。このイヌナシは計画策定後に天然記念物に指定された。平成28年度にはこの計画を改訂する。

「3年かけて指定地域周辺の動植物を調査してきました。イヌナシだけでなく花粉を運ぶ昆虫などを含め生態系全体を守る計画になる予定です」と石神さんは語る。

 10種の桜の多くは公園や道路の造成でよく利用される種でもあるので、希少種とはいえない。

 また、ソメイヨシノが原因となって野生の桜に遺伝子が取り込まれ、枯れやすくなるなどの問題は出てきていないので、イヌナシのように規制は簡単ではないだろう。向井教授は語る。

「ソメイヨシノも魅力的ですが、山のなかにポツポツと生えるヤマザクラの花が霞の中でみえると日本の春を感じます。ヤマザクラの花と葉の色はさまざまです。

 特に葉は緑、オレンジ、紫など色が大きく異なります。多様性をそのまま色で表現してくれるヤマザクラが最も好きですね」

 遺伝子撹乱の原因となるソメイヨシノが、100年ほどで全国に爆発的に広がったのは鮮やかな咲きっぷりが人々を魅了したから。

 ならば、ソメイヨシノも楽しみながら地域に生える野生種の桜にも目を向け、その違いや多様性を楽しむことが対策のスタートになるだろう。そして、人の生活を含めた身近な生態系にも興味をもてるかもしれない。

 桜の花見はこれからが最盛期だ。

取材・文 山下 祐司

【了】

1 2 3
PAGE TOP ↑