遺伝子の攪乱を巻き起こす? クローン桜“ソメイヨシノ”に潜む問題とは

開花が進むソメイヨシノに胸を躍らせている人も多い。しかし急激に広まったソメイヨシノが、野生の桜の生態系にある問題を起こしている。

山下祐司| Photo by Getty Images

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野生の桜にみられる遺伝的性質の変化

桜
サクラサク
【写真:Getty Images】

 ソメイヨシノのつぼみがほころびはじめた。首都圏ではまもなく満開を迎えようとしている。可憐な薄いピンク色の花は人々の心を躍らせる。

 桜の研究を進める岐阜大学の向井謙教授は「殺風景な冬の景色があっという間に色づき、春の到来を知らせてくれる”暖かさ”があります」とその魅力を語る。

 しかし、ソメイヨシノが全国的に広がったことで問題が起きている。

「ソメイヨシノの遺伝子が広がることで野生の桜に遺伝的性質の変化がおこっています」と向井教授は指摘する。ソメイヨシノによる遺伝子の撹乱だ。

 日本にある桜は生物学的分類では10種の野生種に限られる。ヤマザクラとオオシマザク、エドヒガン、タカネザクラ、オオヤマザクラ、マメザクラ、チョウジザクラ、カスミザクラ、ミヤマザクラ、カンヒザクラだ。

 それでも日本各地にさまざまな名前の桜があるのは、同じ種であっても地域ごとに呼び名が異なり、同種でもかたちが違う変種で別名がつけられているから。また、10種の桜をもとに自然、または人為的な交雑で生まれた雑種に園芸品種用の名前がつけられるなど理由もいろいろで数は非常に多い。

 桜の野生種であるヤマザクラやエドヒガンの中に、ソメイヨシノの遺伝子が持ち込まれていると明らかにしたのが向井教授たちだ。「ソメイヨシノの遺伝子は野生の桜に広がりやすい。大きな問題です」と向井教授は語る。

 ソメイヨシノの遺伝子が広がるパターンは2つ。ソメイヨシノのめしべに別種の桜の花粉つき、受精をへて種ができるのと、反対にソメイヨシノの花粉が別種の桜のめしべにつくパターンだ。

 向井教授たちは岐阜県関市にある県立百年公園に生えるソメイヨシノとヤマザクラ、エドヒガンを解析し、ヤマザクラとエドヒガンの花粉がソメイヨシノのめしべにつきできた種と、ソメイヨシノの花粉がヤマザクラのめしべについてできた種を確認。

 ソメイヨシノが別種の桜と交雑しているのを遺伝子レベルで明らかにした。向井教授は説明する。

「たとえば、ソメイヨシノの父親であるオオシマザクラは伊豆諸島と伊豆半島、房総半島に分布します。

 ソメイヨシノが全国的に大規模に植えられることで、本来、オオシマザクラの生えない地域でオオシマザクラ由来の遺伝子が広がる。人の手で野生の桜に遺伝的な変化を起こしているわけです」

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