科学俳句一覧

俳人:北大路翼(きたおおじつばさ)
1978年横浜生まれ。
幼少時より俳句に親しむ。
現在「歌舞伎町俳句一家 屍派」を立ち上げ後進を育成。
アートサロン「砂の城」城主。句集に『天使の涎』、共著に『新撰21』

あの世でもこの世でもなく雲の峰 

魂を可視化するなら雲であろう。あの世を空の向こう側と表現するたとえもある。最近、永六輔、大橋巨泉が続けて亡くなった。彼らの魂はもくもくと積乱雲のように雄大だ。積乱雲は別名、入道雲。昭和の入道は何を思ってこの世を覗いているのだろうか。

透明に二度と戻れぬ蝉の羽化

どんな生き物でも生まれたては純粋である。人間だって赤ん坊の頃から悪い奴はそうそういないと思う。蝉の寿命が短いのは汚れないための矜持なのかも知れない。そういえば、今年の夏はまだ蝉を見ていない。土の中から出るのも嫌になったのだろうか。参院選の結果は如何に。

申し訳なささうにゐる食中り

どれだけ保存技術が向上しても、梅雨の時期になると必ずどこかで起こる食中毒。細菌も生き残るべく必死なのだろう。あたってから耐える方もまた必死なのだが、その姿はどこか滑稽だ。波が引くのを待つしかない消極的な解決策があわれを誘う。ぼくはまだ「ウン」よく食中りを経験したことがないが。

星屑を集めてゐたる蟻地獄

恋においてもっとも美しいのは待つ時間である。メールの返信、待ち合わせ、そして先にシャワーを浴びている彼女。不安のドキドキが、愛情のトキメキに変化することは周知の通り。いつも待ち続けている蟻地獄は恋の虫だ。別名ウスバカゲロウも儚い。恋が地獄になりませんように。

新緑や小さきものはよく動き

巨大なワニが発見されて話題になっているが、本当に怖いのは目に見えないものだ。水の中にはいったいどれくらいの微生物がいるのだろうか。餌を求め悶え蠢く微生物。小さいからいいけど目に見えたら嫌だろうなあ。水を買って飲むようになるのも肯ける。

春行くや空に無数の目を残し

いつの間にか悪役にされてしまったドローン。素晴らしい発明だと思うが、いかんせんネーミングがよくない。どろーんという馬鹿にしたような響きと、泥棒を連想させる「ドロ」。これじゃあ遠隔操縦できる泥棒だよ。悪いのは機械ではなく扱う人間なんだけど。遠隔のそのまた向こうの社会の目を思うべし。

目に見えぬ免疫力よ石鹸玉

最近は赤ちゃんにチューをしてはいけないそうだ。口から雑菌が入るらしい。なんとも恐ろしい時代になったものだ。赤ちゃんにとっては潔癖さよりも、愛情の方が大事だと思うけど。愛情に免疫力が必要なのは大人になってからの話。どちらにせよ若いうちに免疫力は鍛えておきたい。

神々の造りし畸形サクラサク

新しいものを産み出すには莫大なエネルギーが必要だ。それもコツコツと蓄えたエネルギーではなく、エラーによって起こる突発的なエネルギーだ。生物の進化も畸形の連続である。昨今は不倫のスキャンダルが続いているが、進化のためにはどんどん交わるべきだと思う。

花びらを纏ふごとくに白衣立つ

白衣の魅力は非日常性だろう。医者や科学者は日常的に来ているのだろうが、僕らにとって白衣は特殊なコスチュームだ。外部を拒否するような白の強さと、はらっと纏っただけのようなルーズさ。近づきがたい感じは、主従関係を強制しているようで美しい。小保方さんが白衣ではなく割烹着を好んだことも戦略的には正しかったと思う。

AIに水温むこと覚えさす 

水温むとは春になって寒さがゆるみ、池や川の水があたたかい感じになってくること。「あたたかい感じになってくる」という微妙な季節の移り変わりを、人工知能は認識することができるのだろうか。〈春の水とは濡れてゐるみづのこと 長谷川櫂〉こんな句をインプットしたら、確実にバグを起すに違いない。チェスで負けても詩人はまだまだロボットに負けないのです。

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