【変わる覚せい剤使用者】第1回 反社会から一般へ 覚せい剤乱用者の現在(全3回) 

覚せい剤で逮捕された元プロ野球選手・清原和博。彼のような刺青や派手な格好、「いかにも」と思わせる姿から覚せい剤使用者をイメージすると現実を見誤る。

山下祐司| Photo by Getty Images Yuji Yamashita|シリーズ:変わる覚せい剤使用者

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変化する使用目的

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人間やめますか?【写真:Getty Images】

 一般化の流れは覚せい剤の使用方法からも裏づけられるという。覚せい剤の使用方法でイメージするのは注射による直接的な摂取。腕に残る注射の跡から常習性を疑われるのは刑事ドラマでよく目にするシーンだ。

 しかし、合川医師が調べたところ第2次覚せい剤乱用期では75%だった注射が第3次になると33.6%に減少。一方で加熱吸煙、いわゆるあぶって吸い込む方法を使う割合が31.7%から50.4%に増えていた。

「おそらく、注射よりあぶりのほうが安全だと誤解されているのが理由でしょう。覚せい剤の安全な使い方はないのですが」と合川医師は話す。

 今では大学を卒業した人や大学院を修了した人、大手企業に勤める人も手を出すようになった覚せい剤だが、使用目的も変わっているという。

 1970~1994年の第2次覚せい剤乱用期は、いわゆる非行少年や不良が社会問題化した時代だった。合川医師によると第2次覚せい剤乱用期の使用目的は主にサバイブ、生き残るためだった。

「第2次乱用期は家庭に問題があるケースが最も多かった。父親がアルコール依存症で暴力を振るい、家庭が子どもを守る場として機能しない。家でも学校でもうまくなじめない子どもたちが、集まって仲間をつくりシンナーを吸っていました。

 そこからスタートして覚せい剤に発展します。生きていくのが辛く苦しいから、ごまかし紛らわすために使っていたのが覚せい剤です。覚せい剤を通じた仲間が暴走族になりました。そして、彼らの“居場所”を提供したのが暴力団だったわけです」(合川医師)

 まさに生き残りと負のスパイラルの進行を同時に推し進めるのが覚せい剤だった。当時は非行がステータスにもなり、暴走族がけたたましい音を鳴らしてバイクを走らすのも流行していた。

 とはいえ今の家庭はより安全にはなり、学歴の底上げもあった。それにも関わらず使用者たちはなかなか減らない。

 原因を合川医師は説明する。「生き抜くためではなく、シンプルに快楽が目的だと思われます。ストレスに弱い人やうつ傾向にある人が気分をあげる“自己治療”として手を出すこともあります」

 覚せい剤の主成分はメタンフェタミンやアンフェタミン、その類似物質。中枢神経を興奮させ気分を覚醒、高揚させ多幸感を与える。

 このように同じ覚せい剤でも時代により利用目的は変わってくる。“自己治療”は新しいサバイブ方法としての位置づけなのかもしれないが、解決方法が覚せい剤しかなかった時代と大きく違うという。「危険ドラッグに近い使い方になっている」と合川医師は指摘する。

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