出生後も長期的に影響が! 子どもの細胞にすり込まれる喫煙の「記憶」
昨今声高に叫ばれる喫煙の悪影響。さらに最近の研究から、妊娠中の喫煙が子どものDNAを変化させ、成長してもその「ダメージ」は残り続けることがわかった。
スポンサーリンクがんや心疾患、呼吸器疾患などのリスクを大きく引き上げる喫煙。たばこの有害性を指摘したところで、「なにを今更」と思われてもしかたがない。
しかし、DNA解析技術の向上で、喫煙で胎児のDNAに「細工」が入り、長期的に残り続けることが明らかになってきた。
日本の2、30代の女性喫煙率はそれぞれ11.7、14.3%となり、女性の平均喫煙率8.5%を大きく上回る(『平成26年国民健康・栄養調査』)。
妊娠中の喫煙は流産や低体重児の出産、乳幼児突然死症候群を引き起こす原因になる。
また、煙に含まれるニコンチンや鉛などの有害物質が胎盤を通過して胎児に直接作用するケースやニコチンの摂取で母親から胎児への血流量が減少し、低酸素状態になり胎児の成長を妨げることが知られている。
米・環境衛生科学研究所などの研究グループが大規模に調べたのが、妊娠時に喫煙をしていた母親から生まれた子どものDNA。
6,685人のデータから、喫煙がDNA上の45万を超える場所を変化させていると、米国の科学誌『The American Journal of Human Genetics』(3月31日)で報告した。
肺がんや乳がん、大腸がん、肝がんに関わる遺伝子をはじめ、様々な乳児の遺伝子が喫煙の影響を受ける。
また、これまで知られていない2,017の遺伝子が母親の喫煙と関連する可能性が示された。
問題は母親の喫煙が、出生後の子どもたちにも長期的に影響し続ける可能性だ。研究グループが分析したのは、喫煙で胎児のDNAに起こるメチル化。
DNAにメチル基がくっつくことをメチル化と呼び、その影響で遺伝子の「働き」が抑えられる。
メチル化は細胞が分裂して新たに生まれた細胞のDNAにも“コピー”されて引き継がれ、一時的な影響で終わらないのが大きな特徴だ。
特にお腹の中にいる赤ちゃんはもともと1つの細胞、受精卵から細胞分裂を繰り返し体がつくられ、出産後も大きく成長する。
子宮の中の胎児の細胞のDNAにメチル化が起こると、体の中でメチル化されたDNAをもつ細胞の割合は増えていく。
母親の喫煙の「記憶」が子どもの細胞に残り続けるわけだ。事実、研究グループは成長した数年後の子どもたちにもメチル化が維持されることを指摘している。
親の喫煙が原因となるDNAのメチル化が、子どもたちの成長や疾患の発症にどう関わるのか。研究の進展が望まれる。
取材・文 山下 祐司
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