“卓上型”加速器は実現するのか? 超小型化に向け一歩。がん治療で大きな成果あげる可能性も
米スタンフォード大学と独フリードリヒ・アレクサンダー大学の開発チームが個別に行った実験が、大きな注目を集めている。
スポンサーリンク米スタンフォード大学と独フリードリヒ・アレクサンダー大学の開発チームが個別に行った実験が、大きな注目を集めている。荷電粒子の加速に従来使われていたマイクロ波使用さの代わりにレーザー光を使う、新たな「オンチップ加速器」と呼ばれる設計技術を用いて、現在の巨大な加速器を靴箱サイズまで小型化することが可能だというのだ。たとえばCERN(欧州原子核研究機構)にある大型ハドロン衝突型加速器は重量3万8,000t、全周約27kmという巨大なものだ。その全周は山の手線(34.5km)に匹敵するといえばイメージしやすいだろうか。
「ネイチャー」誌オンラインで11月に公開された論文によれば、スタンフォード大のチームは、石英ガラスで作られた格子構造の極小デバイスに、高エネルギーの電子を注入。この人工的に設計したデバイスにパルス状のレーザー光を照射することにより、電子加速をSLAC国立加速器研究所(1962年にスタンフォード大学によりカリフォルニア州メンローパークに設立された国立研究所)にある線形加速器の10倍にする実験に成功した。100mのオンチップ加速器で、3.2kmの線形加速器と同等の加速が可能だという。
また「フィジカル・レビュー・レターズ」で公開された論文によると、フリードリヒ・アレクサンダー大学のチームも同様の実験を行い、レーザー光の使用により、これまでできなかった、低エネルギーの非相対論的電子の加速に成功した。
この2つの実験成果をもとに、両大学およびSLAC国立研究所、ドイツ・ハンブルクのドイツ電子シンクロトロン(DESY)、スイス・フィリゲンのポール・シェラー研究所の3つの国立研究所、および大学と企業が加わり、「オンチップ加速器」の実働プロトタイプを開発するプロジェクトが立ち上がった。同プロジェクトでは5年以内のプロトタイプ開発を目指している。ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団が、このプロジェクトに1,350万ドルを助成すると発表した。
同プロジェクトの共同主任研究者の1人でスタンフォード大学応用物理学科のロバート・L・バイエル博士は、このプロトタイプは新世代の『卓上型』加速器の原型となり得るもので、生物学や材料科学における予期せぬ発見や、セキュリティースキャン、医療、X線イメージングへの応用につながる可能性があると述べている。
超小型加速器が実現すれば、がん治療など、医療分野で大きな貢献が期待できそうだ。
取材・文 岡 真由美
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