“女性はマルチタスクが得意”本当か?最新調査で否定された脳の性差

胎児期に浴びたホルモンの影響で脳差が生じるとか、男性脳は同時にひとつのことしかできないシングルタスキング、女性脳は複数を同時進行でこなせるマルチタスキングであるなど、男女の脳は違うというのが、定説となっている。

岡真由美| Photo by ashinari

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【写真:写真素材・足成】

 「男と女では脳にも違いがある」という説を、耳にしたことがある人は多いだろう。胎児期に浴びたホルモンの影響で脳差が生じるとか、男性脳は同時にひとつのことしかできないシングルタスキング、女性脳は複数を同時進行でこなせるマルチタスキングであるなど、男女の脳は違うというのが、定説となっている。

 ところが解剖学的みかたでは、男女の脳にはほとんど違いはないようだ。イスラエルのテルアビブ大学心理科学部のダフネ・ジョエル教授らが昨年11月末に「Proceedings of the National Academy of Sciences」に発表した研究論文によれば、性による違いは脳のごく一部にみられるものの、個々の脳に大きな男女の差は存在していないという。

 教授らは1,400人以上の脳をMRIでスキャンし、脳のさまざまな部位における組織の厚みや重さなど、脳の働きよりも解剖学的特性に注目した。個々の脳の部位を測定してポイントをつけ(たとえばある部分の組織が厚く・重ければ10ポイントなど)、男女の脳で特性が見られるかどうか分析を行ったが、個々の脳が男女どちらかに明確に分けられるケースはほとんど見当たらなかった。

 ジョエル教授は、確かにごく一部に男女の脳の違いと思われる部分が存在するものの、今回調査したすべての脳での部位、連絡部において、男女の違いを見出すことは難しく、差異のない部分のほうが、異なる部分をはるかに大きいと述べている。また教授らは、過去に5,000人以上の被験者に対して行なった、2つの研究を見直し同様の分析を行ったが、結果は同様だったという。

 今回の調査結果から「人間の脳は、男性脳、女性脳という、2つの明確なクラスには分類できない」と、ジョエル教授は結論づけている。世間一般にいわれる性差は、社会における男女の扱いの違いが大きく影響しているのではないかというのが、教授の見方だ。

 またWired.co.ukも、ロザリンド・フランクリン医科学大学による同様の研究結果を掲載している。6,000件を超える脳のsMRI(構造的核磁気共鳴画像法)検査の結果をメタ分析した結果、脳の海馬の大きさに男女差がないこと、また左右の大脳半球をつなぐ脳梁の大きさにこれまで定説とされてきた男女差がなく、男女の脳に半球による言語処理方法に違いがあるという説が間違っていることが判明したという。

 とはいえ反論もある。英デイリー・メイル・オンラインによれば、カリフォルニア大学アーバイン校の神経科学者であるラリー・カヒル氏はテレアビブ大学の研究について、人間の脳には解剖学的に男女に分類できない部分が多く存在する点には同意しつつも、脳の働きにおいて性差が影響していることは否定できないと述べている。

取材・文 岡 真由美

【了】

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