テレポーテーションの実現に一歩近づく。54センチ離れた重ね合わせに成功

近年、「量子テレポーテーション」の研究の進歩が目覚ましい。今後さらに研究が進めば、物や人間の瞬間移動が可能な時代の到来も、夢物語ではないかもしれない――。

岡真由美| Photo by Getty Images

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夢ではなくなった? テレポーテーション可能な世界【写真:Getty Images】

 昨年12月23日物理学者らが、2つの離れた場所に同じ原子の「クラウド」が同時に存在する状態を作り出すことに成功した 。

 物理学の世界では、ひとつの物体が別々の場所に同時に存在することはありえない。しかし非常に微細な量子力学の世界では、複数の状態が同時に存在する(量子重ね合わせという)。

 科学誌「Nature」で公開された論文によると、科学者らはこの「重ね合わせ」を原子に応用することに成功したという。

 これにより、将来的には現在のように文字や音声、画像といったデータを送るだけでなく、物質を送って受け手側で「再構成」する、すなわちテレポーテーションが実現するかも知れないというのだ。

 今回の実験において、スタンフォード大学のマーク・ケイスビッチ博士らは、レーザーを使って9メートルの高さの位置にある箱の中に、1万のルビジウム原子からなるクラウド(大きさは数ミリ程度)を作り出した。

 『ボース・アインシュタイン凝縮体』と呼ばれるこの原子のクラウドが箱の上部に届くと、約1秒間だけ2つの状態が生まれた。今回の実験では、波束が54センチの距離を置いて、1秒間、2つの場所に現れた。その後箱の下部へ降りてくるに従い、クラウドは再び1つの状態へと戻ったという。

 これまでの原子重ね合わせの実験では、数センチの離れた場所に同時に存在するのが限界だったという。
 ただしクラウドを作り出すには絶対零度(-273.15°C)まで冷却した状態が必要となる。

 量子の世界では、光子などの量子を使って離れた場所に情報を送る「量子テレポーテーション」の研究が進んでおり、2013年には古澤明東大工学部教授を中心とするグループが、完全な量子テレポーテーションに成功したと発表している。
 
 今後さらに研究が進めば、将来的には“物体”を瞬時に遠方へ送ることが可能になるかもしれない。

取材・文 岡 真由美

【了】

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