ネズミ駆除器の音が聞こえる! 超音波知覚者の憂鬱
世の中には他人にはわからない感覚を持つ人がいる。I氏もそのひとり。彼は人間に聞こえるはずのない音、超音波が聞こえるのだ。
スポンサーリンク超音波が聞こえる
「さっきから鳴ってるんですよ」
私たちは喫茶店にいた。
「たぶん2万5000ヘルツぐらいの音が……」
岩崎純一さんは超音波が聞こえる。それは苦痛だという。
「そもそも人間は2万ヘルツ以上の音、超音波は聞こえない。超音波は鼓膜から音が入って耳小骨を震わせ、うずまき管を通って側頭葉へ行くというルートを通らない。震えてないわけだから」
“聞こえる”という言い方をするが、それとは違うらしい。
「色彩で見ているのかもしれない。だって耳では聞こえないんだから」
禅問答のようだが、聴覚が超音波に対応していない以上、超音波は人間には聞こえない。人間には聞こえないのに、岩崎さんに聞こえるということは、耳以外の、体性神経全体を使って空気の振動を捉えるような、そういう能力があると考えた方がいい。
実は岩崎さん、音や文字が色で見えたり、人に会うと色が見える共感覚者でもあるのだ。嗅覚も視覚化されるため、たとえばウドンを食べた後の人は黄色く見える。たぶんダシの匂いを無意識にキャッチし、その匂いに黄色を当てはめているのだろう。
岩崎さんの共感覚については、いずれレポートする。共感覚は未知の世界だ。それは人間それ自体が未踏地でありブラックボックスであることを露わにする。
共感覚者の岩崎さんにとっての五感は、一般人とはまったく違う。
「全身で見ているから、どっちだとわかるのかもしれない」
岩崎さんは『超音波知覚者コミュニティ東京』という超音波が聞こえる人たちの情報交換の場所をネット上に作っている。
「本当にここで鳴っているというのをグーグルマップにマッピングしているんです」
とはいえ、超音波は超音波知覚者にしか聞こえない。
「そこでコウモリの研究者の人に協力してもらって確認しています。コウモリが飛んだらコウモリは超音波を発します。コウモリの超音波を捉えるセンサー=バットディテクター(コウモリ探知機)があって、超音波を捉えてコウモリの居場所を確認するんですが、それを人工的な超音波発生機に使ってもらっています」