ネズミ駆除器の音が聞こえる! 超音波知覚者の憂鬱

世の中には他人にはわからない感覚を持つ人がいる。I氏もそのひとり。彼は人間に聞こえるはずのない音、超音波が聞こえるのだ。

川口友万| Photo by Getty Images,Tomokazu kawaguchi

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コウモリのように超音波を聞く

超音波
岩崎純一
共感覚者として著書に『音に色が見える世界 「共感覚」とは何か』(PHP新書)、『私には女性の排卵が見える 共感覚者の不思議な世界』(幻冬舎) がある。【写真:川口友万】

 私たちは、あまりというかまったく気にもしていないが、自動ドアやパーキングメーターの人感センサーや、車両センサーには超音波が使われている。自動車にも超音波レーダーは組み込まれているし、歩行者用の押しボタン式信号にも不用意に人が飛び出すと、警告が出るように超音波センサーが内蔵されている。意外なところでは家庭用ロボット。ロボットのセンサーも超音波だ。世の中は超音波だらけなのだ。

「僕がここにあります、と言ったら、その人がバットディテクターをかざして、『本当にある』」

 ちなみにさっきから聞こえてくる音というのはどっちから聞こえるんですか?

「たぶんあっちから鳴っている」

 と岩崎さんは厨房を指さした。

「食品を扱っているんで、ネズミ除けじゃないかと思います。シー・アイ・シー社製?」

 メーカーまでわかるのか。

「とにかく不快なので、買い物や外食の時に困ります」

 禁煙者と喫煙者が酒を飲みに行くと不便が多いが、その超音波バージョンだ。相手には超音波がまったく存在さえ分からないのだから、それは困るだろう。仕事先で会議室に超音波が聞こえたり、デパートに買い物に行きたくても超音波に邪魔されたり(入り口付近に超音波式の人感センサーが取り付けてあるため)、とにかくストレスが多い。

 ここはネズミ除けの超音波がうるさくていられません、と得意先から帰るわけにもいかず、大変に不快な時間を我慢しなくてはならない。

 他人と共有できない感覚を持つ苦悩は、他人にはわからない。超音波が聞こえる、つまり他の人よりも、聞こえる音の範囲が広いわけだから聞こえている音の世界は、他人が聞いている音とは別物だろう。

「感覚や知覚をそのまま楽しめればいいなと思いますが、超音波で頭痛を起こしたり平衡感覚を失ったりする人もいます。マップを作って、超音波が多い場所を避けるしかないんですが、不便ですね」

 他人と違う感覚を持つ苦労は、本人にしかわからない。そして、その苦痛と表裏一体にある、豊穣な感覚の世界もまた、私たちは知ることができないのだ。

取材・文 川口 友万

【了】

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