「開催するならコストを削れ!」望めない? オリンピックの経済効果
新国立競技場の建設や大会運営費の増大ばかりが話題になる東京オリンピック・パラリンピック。その莫大な費用に釣り合う“見返り”は期待できるのかーー。
スポンサーリンクあやふやな経済波及効果予測
大会の公式エンブレムの「ぱくり」疑惑が発生し、注目を集めた2020年東京オリンピック・パラリンピック。
このエンブレム問題がかすむほど、建設総工費が当初の895億から2520億円にまで膨らんだ新国立競技場建設の反響は大きかった。
騒動はさらに続く。昨年末には大会全体の運営費が当初見込みの7340億円から約6倍となる1兆8000億円に増大するとの報道が流れ、大会組織委員会の武藤敏郎事務総長が否定する場面もみられた。
大阪大学大学院・経済学科研究科の佐々木勝教授は「オリンピックのGDPへの効果は限定的。だからこそ開催にはコストを下げるべきでしょう」と語る。
今年の1月に愛知学院大学の三好向洋講師とともに経済学の学術誌「Asia Economic Policy Review」で発表した論文をふまえての発言だ。
佐々木勝教授たちは26年ぶりに日本で開かれた1998年の冬季・長野オリンピックに注目し、このオリンピックが開催されなかった場合の仮想長野県のGDPをはじき出し、オリンピックの“経済効果”を調べた。
オリンピック・パラリンピックの醍醐味は世界中から集まった選手の観戦だが、一方で常に話題になるのはその経済効果。
世界最大規模のお祭りには競技場の建設やインフラの整備、大会の運営などに莫大なお金が消費される。だからこそ地域の期待も膨らみ、オリンピックの経済活性化効果に注目が集まる。
東京都オリンピック招致委員会が開催決定前の2012年に、オリンピックの経済波及効果は約3兆円と試算している。
ただし、運営費や消費支出などに的をしぼっているため大会施設の建設などのインフラ整備は含まれていない。
昨年末には日本銀行の調査統計局グループが2014年~20年までの7年間で国内総生産(GDP)を累計25兆~30兆円押し上げる効果があると発表した。ちなみにGDPは新たに生み出した付加価値、つまり粗利の指標だ。
佐々木勝教授たちが調べた1998年の冬季・長野オリンピックはスピードスケートの清水宏保やノルディック・スキージャンプの船木和喜と団体メンバーなどの活躍で5つの金メダルを獲得して非常に盛り上がった大会だ。
このオリンピックがなかった仮想長野県のGDPを算出し、実際の長野県のGDPと比較。オリンピックがどれだけのGDPに影響したのか長期的に調べ、その効果を推定している。
長野オリンピックなしの仮想長野県をシミュレートして経済変化を追うははじめての試み。佐々木教授はこう指摘する。
「オリンピックなどのビックイベントの経済効果を調べるときの一般的な方法は、イベントの前後で変化する経済データから効果を計算します。
しかし、本来はそのイベントが開かれなかったときの影響まで含めて考えるべきです」