【変わる覚せい剤使用者】第2回 覚せい剤乱用者は「治る」のか 治療法の転換、そして進歩(全3回)

「ダメ。ゼッタイ」や「人間やめますか…」などインパクトの大きいフレーズは確かに予防には向いているが治療の実状とは一致しない。

山下祐司| Photo by Getty Images Yuji Yamashita|シリーズ:変わる覚せい剤使用者

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患者の“本音”に耳を傾ける

覚せい剤2
埼玉県精神医療センターで覚せい剤使用者の治療を行う、合川勇三医師
【撮影:山下祐司】

「依存症は薬を飲んで治るものはないので、本人の取組次第です。だからこそ本人の気持ちが重要になります」と合川医師は話す。

 近年は患者の気持ちを引き出す動機づけ面接法からスタートする。そこに圧迫感は全くない。合川医師はこんなやりとりをする。

「覚せい剤が欲しくなったと患者がうったえると、一度、使いたい気持ちを受け止めて、『でも、治療したいから病院に来てるんですよね』と話しかける。

 そうすると患者自ら欲求をコントロールしようと努めます。言葉にできない患者の気持ちを表に出して患者に伝えます。昔ならダメだと否定して、正論を伝えるだけでした」

 このように患者の“本音”を引き出して治療は進む。動機づけ面接法と並行して行うのが認知行動療法だ。

 認知行動療法とは誤った考え方や物事のとらえ方、受けとめ方に患者が気づき、自ら修正して行動できるようにサポートする治療法。

 様々なアプローチがあり、うつ病や不安障害だけでなく最近ではひきこもりや腰痛の治療にも用いられている。

「一般的にはグループでの治療法として有名ですが、個人療法としても使います。具体的には覚せい剤を使いたい欲求の引き金、トリガーを遠ざける。

 まず、トリガーが何かを聞きだします。池袋の売人から買っていた人は池袋に行くと、欲求が出て動悸が激しくなり汗をかいたり、体に変調をきたします。だから池袋には行かないようする。

 覚せい剤を注射で摂取していた人には、粉末をエビアンに溶かして使った人が多いのでエビアンを見るだけで体が反応する。だからエビアンやミネラルウォーターを買わないようにアドバイスします。エビアンはふたが大きく使いやすいようです」

 ほかにも様々な方法を組みあわせる。たとえばスケジュール帳に覚せい剤を一日使わないで過ごせたら◎をつけ、日々の達成度を目に見えるようにして実感させる。

 暇をうめるのも重要な治療だ。時間が空くと覚せい剤について考えてしまうのでスケジュールを細かくたて、なるべく実行するように伝えるという。

「暇とは時間に空きができることで、空白の時間が患者にさびしさを感じさせます。ですから、暇だというのは、さびしいといっているのと同じなのです。

 患者と話合いながら、暇を減らすために自助グループへの参加を勧めることもあります」と合川医師は話す。

 ここでも自助グループへの参加を直接伝えるより、自分の意思で希望することが重要になる。合川医師はそれを「共同作業」と表現する。このように個人の性格や家庭環境などに合わせて治療を進めていく。

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