第19回メ芸で受賞したバイオアート 遺伝子情報が家族の形を表現する 前編(全2回)
日進月歩で進化するバイオ技術。現在同性カップルが子どもを設けることはできないが、さらに遺伝子技術が発展したら……?アート作品で問いかける。
スポンサーリンク実在のカップルの遺伝子データから出来た子どもたち
現在同性カップルが子どもを作ることはできないが、遺伝子情報から推測することはできるはず。
そう思ったメディアアーティストの長谷川愛さんは、遺伝子解析サービスとCGを使い、実際のカップルから借りた遺伝子情報から、架空の子どもの画像を制作した。
長谷川愛さんは高校卒業後、岐阜県にある専門学校IAMAS(アイマス・現在は大学院のみ)に進学、メディアアートを勉強した。
その後東京で仕事をしてから、ロンドンに渡りメディアアート関連の会社に就職、イラストレーター、アニメーター、ウェブの仕事などをした。
そしてキャリアを見直すため、イギリスの芸術大学Royal College of Art(RCA)へ進学し2012年に卒業。現在はアーティストのスプツニ子!さんに誘われて、マサチューセッツ工科大学のメディアラボで研究員をしている。
「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」は第19回文化庁メディア芸術祭のアート部門優秀賞を受賞した家族写真による作品。女性同士のカップルと子どもが二人登場する。
「今回フランスに在住するカップル、牧村朝子さんモリガさんに協力してもらいました。ウェブの遺伝子解析サービス『23andMe』で、2人の遺伝子情報SNPs(スニップス)を解析。
その情報をランダムで二回組み合わせてできたのが、作品に登場する子どものまめ子とぽわ子です」(長谷川さん)
23andMeで解析した遺伝子情報には外見や性格などの体質の特徴も含まれている。
「朝ご飯の写真を見ると、まめ子が顔をしかめています。これはまめ子にコリアンダーの香りが石鹸に感じるという遺伝子情報があったためです」
ぽわ子はアスパラガスを食べようとしている。これはアスパラを食べると尿の匂いが変化するという遺伝的な特徴があったため。そんな細かい特性まで分かるとは!
長谷川さんは、作品がナイーブな問題と背中合わせだったと語った。
「今回のプロジェクトの残酷なところは、今の技術でお二人の子どもが生まれないことです」
遺伝子情報を借りる牧村さんとモリガさんには、プロジェクトの協力を依頼するときに、あくまでアート作品であることを説明し、何度もスカイプで話し合った。
モリガさんは朝子さんが悲しい気持ちにならないかを心配していたという。
「朝子さんはとてもエモーショナルな方なので、作品の子どもたちを見て涙をにじませていました。
2015年12月頃には、友人に『自分達の子どもを見て』と写真を見せていたそうです。最近会った時に、ようやく作品として消化できたと聞きました」