人工知能はコピーできる知性 人間と人工知能の未来を語る~長谷川修インタビュー(後編)

人類が初めて作り出した知性は、人類の未来をどう変えるのか? まったく新しい知を生み出す領域、人工知能という学問を東工大の長谷川修氏に問いかける。(全2回・後編)

川口友万| Photo by Tomokazu Kawaguchi

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人工知能に人間の道徳や倫理を教える必要がある

AI
NTTコミュニケーションズ株式会社と共同開発した、IoT(Internet of Things)*2の機器が収集する膨大なデータの中から、自律的にノイズ(不要な情報や異常値など)を取り除いたうえで、法則性や因果関係を発見する「CLARA with SOINN」の概念図。ビッグデータを迅速に処理する
【画像提供:SOINN】

- 人工知能が社会に与える影響には、どのようなものが考えられますか?

長谷川:今でもスマフォ依存症のようなことが起きています。人工知能とのやり取りがあまりに快適になってしまうと、人間同士のコミュニケーションやコミュニティが希薄になってしまいます。

 自分にとって都合のいい、快適な世界ができてしまう。

 今の若い人たちは車の免許をとらないですし、テレビも持っていないですし、酒もタバコもやらなかったりします。パソコンとスマフォがあれば、かなりの情報がとれて、娯楽も済んでしまいます。

 人のライフスタイルや考え方は、良きにつけ悪しきにつけ、テクノロジーによって変わっていきます。そのスピードはさらに加速して行きます。その良い面と悪い面の折り合いをどうつけていくか。

- 人工知能が人間の敵になる可能性はないのでしょうか?

長谷川:人間は自己保存の本能があるので、自分にとって得になるかどうかは重要ですが、コンピュータにはない。それに人工知能はコピーできますから、それも人間とは違います。人間は自分が死んだらおしまいですから、いろんなものを恐れたり、避けたりします。

 コンピュータは与えられたものを処理するものですから、それが人間のような自我を持つというのは考えにくいですね。哲学者の方が言っていらっしゃるんですが、ロボットの研究者に、このロボットは痛みを感じるのか? と聞いたらしいです。

 人間は痛みを感じるので、痛みを感じるかどうかは、尊厳を認めるべき存在か否かの重要な判断基準になります。

 コンピュータの世界には痛みがない。それに自分自身をコピーできるので、都合が悪くなればコピーしたり書き直したりバックアップしたりすることができます。

 ですから、人間のもつ尊厳や倫理観、欲求はコンピュータには当てはまらず、人間の敵という以前に、あくまでただのモノだと思います。

 ただ、人間社会との共存は避けて通れませんので、人間とは何かを教える必要があると思います。人間の文化や道徳はいずれ教えなくてはいけないでしょう。

 人間の場合は、一人一人を何年もかけて教育する必要がありますが、コンピュータの場合は一つを丁寧に育てれば、あとはそれをコピーしたり分解することができます。

……人工知能がもたらす変化を過剰に恐れる必要はなく、むしろ使う側の人間の悪意が問題と長谷川氏。制御不能の人工知能を生み出すのは、あくまで人間であり、人工知能が悪意を持つとすれば、それもまた人間のせいなのだ。

取材・文 川口 友万

【了】

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