なぜオスが“出産”するのか?【タツノオトシゴの不思議01】

地球上に約28000種いる魚類のなかでタツノオトシゴのオスだけがもつ、特殊な能力。それは、過酷な自然界を生き抜くための、戦略的進化だった。

山下祐司| Photo by Yuji yamashita , Getty Images|シリーズ:シリーズ・研究室から

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メスのエネルギー温存のための繁殖戦略

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研究室のタツノオトシゴ【写真提供:山下祐司】

 日本では北海道より南の沿岸に広く分布するタツノオトシゴはヨウジウオ目ヨウジウオ科の魚。『日本の海水魚』(山と渓谷社)によれば世界中で215種のヨウジウオ科の魚のうち45種が日本で確認されている。タツノオトシゴでイメージするかたちに似た仲間にはイバラタツやサンゴタツ、タカクタツなどがいる。ちなみにタツノイトコと名前がついている魚はタツノオトシゴにあまり似ず、鉛筆のように直線形だ。漢方薬としても珍重されているタツノオトシゴだが、同書によると非常に堅いようだ。

 タツノオトシゴの繁殖期は春から夏。オスが育児のうを膨らませてメスを追いかけてアピールする。ペアが決まると向かい合い、メスのお腹の下にオスのお腹をくっつける。そして、メスからオスの育児のうに卵が渡される。お互いの口とお腹がくっついた姿はまるでハート型。卵を受け取った育児のうの中には卵を一つずつ仕切る構造ができあがる。
約1ヶ月後には育児のうの中にいる卵がふ化し、無事「出産」となる。通常は、しっぽを海藻などに絡ませ、しっかり体を固定して体を激しくゆすりながら1匹ずつ出産する。総数は数十匹にもおよぶ。

 タツノオトシゴはなぜオスが「出産」するのか。それには繁殖戦略としての利点があるという。「魚にはオスが卵を守る種が数多くいます。体内で卵をつくるメスのエネルギー消費は激しく、大きな負担になります。子育てをオスに任せるとメスは次の産卵に備え、体力の回復に専念できます。タツノオトシゴもこの戦略をとっています」(川口助教)。

 育児のうを持つのはタツノオトシゴだけではない。タツノオトシゴと同じヨウジウオ科に属するイシヨウジやトゲヨウジなども育児のうをもっている。しかし、その形はことなる。川口助教はタツノオトシゴとその仲間の遺伝子を比較することで、タツノオトシゴの不思議に迫ろうとしている。

 次回はタツノオトシゴの詳しい研究についてレポート。

取材・文 山下祐司

【02へつづく】

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