草の力で異常気象のリスクヘッジ【明らかになる生物多様性の役割 01】

最近の研究で生物多様性が豊かだと、集中豪雨や干ばつなど異常気象の被害を減らせることがわかってきた。生物多様性が生み出す様々な「利益」とは。

山下祐司| Photo by Getty Images , Yuji yamashita|シリーズ:シリーズ・研究室から

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生産量の増加に欠かせない植物の多様性

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生物多様性と気候変動について研究している横浜国立大学の森章准教授【写真:山下祐司】

 このように生物多様性が「力」を発揮するための土台となるのが、植物による一次生産量の増加だ。植物の多様性が高いと、生産量が増加するのはシンプルな実験で確かめられている。

 同じ広さの土地を準備し、種数を変えて植物のタネを蒔く。時間が経つと植物の種数の少ない土地より、多い土地のほうが植物はよく茂る。

 実際の実験は厳密に管理され、また、種数の増加と生産量の増加もどこかで頭打ちになるが、世界中で最もよく行われている実験のひとつだという。

 なぜ、多様性が高まるとこのように生産量が増えるのか。その理由の一つは植物によって養分の好みが異なり、種類が多いほど土壌を効率よく利用できるからだ。

 大量に並んだ鮨を目の前にして、マグロ好きが集まると貝類など特定の鮨が残りがちだが、好みが異なる人たちが集まればどのネタもまんべんなく減り、完食できるようなもの。

 二つ目の理由は、種に多様性があると、生産力の強い種が含まれる可能性が高まり、競争によって生産力の高い種が生き残るためと考えられている。人口の多い国ほど、オリンピックで金メダリストが出る可能性が高まる原理と共通する。

 茂った植物はやがて枯れて、土壌の栄養となる。植物種の多様性は、土壌内の微生物にとっても有益になる。土壌の養分などに多様性が生まれ、微生物の種の多様性や、個体サイズの増加を促すことが知られている。 有機物の分解によって生じる栄養塩類の循環も促され、土壌が育まれる。

 このような植物の生産を土台とする生物多様性のもつ力は、異常気象の抵抗力を強めるだけではない。食糧生産を間接的に安定させる働きや、有害な化学物質の分解を促す。

 また、外来生物の侵入だけでなく、病害虫や病原菌の繁殖や蔓延を抑え、感染症によるアウトブレイクのリスクも低下させることが知られている。

 次回は生物多様性の地球へのマクロな影響から、人の収入増に直接結びつくミクロな影響を紹介します。「役立つ」生物多様性についてレポート。

取材・文 山下 祐司

【02へつづく】

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