第19回メ芸で受賞したバイオアート 遺伝子情報が家族の形を表現する 前編(全2回)
日進月歩で進化するバイオ技術。現在同性カップルが子どもを設けることはできないが、さらに遺伝子技術が発展したら……?アート作品で問いかける。
スポンサーリンクなぜ新しい技術の使用の是非を決めるのが研究者なのか?
ナイーブな問題にも向き合いながら、長谷川さんはプロジェクトを進めていったが、そもそも制作するきっかけとなったのは、一般の人にも議論の場を設けたいという思いがあったためだ。
日本では卵子凍結保存が勧められていない。
「イギリスにいた時は、未婚のシングル女性に向けた卵子凍結サービスの記事をファッション雑誌で見るほど、ハードルの高くないものでした。
日本では卵子凍結保存が勧められていないことを知り、『誰が決めたのか?』と疑問に感じたんです」
長谷川さんは卵子凍結保存が国内で推奨されない理由について、一部の研究者の判断によるものと知った。
そのときに「自分も議論に参加して話したかった」と強く感じたそうだ。
作品はNHK総合テレビで特集され、番組『会えるはずなかった 私の子どもへ』が放送された。
放送後に視聴者に意見を求めたところ、2日間で500以上のコメントがSNS上に流れた。
これらを読むと、肯定的な意見や否定的な意見、疑問を投げかけるもの、人の数だけ考えにもバリエーションがあることが分かる。
「番組に登場したバイオ研究の権威、京都大学 iPS細胞研究所の八代嘉美准教授と、東京農業大学 応用生物科学部バイオサイエンス学科の河野友宏教授は、ips細胞を卵子や精子に変える技術を人に使うことについて、まったく逆の意見でした。
科学者の価値観も違うのだから、議論の場は広く設けるべきだと感じました」
ips細胞から精子や卵子が作れるようになったら、その遺伝子技術の使用の可否を一部の研究者の判断にゆだねていいのか?
幸せそうな家族写真から何を感じ取るかを、作品は鑑賞者に問いかける。
取材・文 石水 典子
【次回は長谷川さんの発想の原点に迫る】