【変わる覚せい剤使用者】第2回 覚せい剤乱用者は「治る」のか 治療法の転換、そして進歩(全3回)

「ダメ。ゼッタイ」や「人間やめますか…」などインパクトの大きいフレーズは確かに予防には向いているが治療の実状とは一致しない。

山下祐司| Photo by Getty Images Yuji Yamashita|シリーズ:変わる覚せい剤使用者

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治療の鍵は孤独からの脱出

覚せい剤
孤独が治療の道を阻む
【写真:Getty Images】

 治療の成果を左右する要因の1つは家族、もう1つは仕事の有無だという。合川医師は説明する。

「家族や仕事を持っているほうが依存症は治りやすい。なぜなら覚せい剤をやめれば、失ったものが取り返せるからです。

 欲求をコントロールできれば家族と暮らせて、仕事に就ける。普通の暮らしに戻れる期待があるから、自然にモチベーションは高くなります」

 一方で、独身者は覚せい剤に再び手を出しやすい。特に長期間使っていた人は幻覚や妄想が残り、覚せい剤で脳機能が低下するので、会話もままならず家族も友達も離れ、仕事もない。

 部屋でひとり孤独に過ごすなら、手っ取り早く覚せい剤で気を紛らわせる。

「こうなると認知行動療法の治療もむずかしく、自助グループや薬物依存症の社会復帰施設などで新たな人間関係を結んで社会に踏みとどまれるようにします」

 普通の人との会話すら難しいので、お金に目をつけた覚せい剤を中心とした人間関係しか残らず治療も難しいと合川医師も認める。

 特に前回に説明した1970~1994年の第2次乱用期で覚せい剤を使ってサバイブしていた人たちは、嫌なことが起こるたびに薬で忘れることで生きてきた。だから他人の意見を受け入れたり、我慢や妥協ができず苦労は大きいという。

「ただし、病院に“わざわざ”足を運ぶ人たちはやめたいわけです。全くやめる気がなければ病院には来ません」と合川医師は語る。

 では、実際の治療成果はどれくらいなのだろうか。データは少ない。

 少し古いものだと1980年代に国立下総療養所(現・下総精神医療センター)に入院治療した患者たち110人の覚せい剤再使用を退院後3~8年たって調べると、56.4%が使用せずに生活していた。

 2010年の報告では民間の薬物依存リハビリテーション施設で生活した人たち21人の退所から1年後を調べると、42.9%が覚せい剤の再利用はなかった。ただし、入院や施設に入所せず回復する人も多いのであくまでも一つの目安にすぎない。

 覚せい剤依存症や精神病の治療は、患者をなんとか社会につなぎとめて覚せい剤への「埋没」を防ぐ取組だ。

 過去の誤った高圧的な面接から動機づけ面接法になり、認知行動療法の導入や再使用予防治療プログラムの実施の他にも、自助グループや全国で数十ヶ所に広がった民間の薬物依存症のリハビリ施設の力も借り、治療は確実な進歩を続ける。

取材・文 山下 祐司

【第3回に続く】

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