人がイルカを出産? メディアアーティスト長谷川愛の発想の原点 後編(全2回)
作品が第19回文化庁メディア芸術祭でアート部門の優秀賞に選ばれた、長谷川愛さん。過去にも多くのユニークな作品を制作している彼女の発想力に迫る。
スポンサーリンク絶滅しそうなイルカを、危機に追いやった人間が産めたら
長谷川さんは、過去にもジェンダーや生殖などをテーマにしたアートを制作しているが、どんな発想から生まれたのかを聞いてみた。
「たとえば『イルカの出産』をテーマにした作品を制作したときに私は30歳くらいで、自分の妊娠・出産について考える年頃でした。
そのときに自分が子どもを欲しいのか欲しくないのかが分からない状態だったんです。
環境問題に目を向けると、『これ以上地球に人口が必要なのか』『こんな環境に子どもを産んでいいのか?』と疑問を感じました。
その反面『40年間毎月生理があって、これが無駄になるのは悔しい』『女性だからこそある、子どもを産める機能を使いたい』という思いもありました」
なるほど、女性なら生理の負担や出産への興味は共感できる。ところがここからの展開が長谷川さんらしい。
「スキューバダイビングをしていたときにサメと目があったんです。イルカやサメのようにコミュニケーションが取れる生き物で、なおかつ人間のせいで絶滅に追いやられた生物を代わりに産めたら幸せなんじゃないかと思ったんです」
生物の種を超えた代理出産!
子どもを産むことへの迷いが「じゃあ、イルカだったら?」という切り口に繋がるとは。その突飛とも思える展開に、聞いていて思わずのけぞってしまった。
長谷川さんは専門家と意見を交換しながら制作を進めていった。そこでわかったのは、胎盤の謎。人間の身体は自分じゃないものが入ると免疫が攻撃する。
しかし胎盤は半分が自分じゃないもの、もしくは代理出産のようにまったく違うものでも受け入れられるという。
「イルカは胎盤から生まれるので、遺伝子改変技術ができれば、イルカと人間をつなぐ胎盤がありえるかもしれないことに気付きました。
そしてマウイ島にいるマウイドルフィンは絶滅に瀕していて、サイズも小さいためお腹に入るのではと、イメージを詰めていったんです」
そうしてできた作品が『私はイルカを産みたい…』だ。
またサメも、薬を投与して器具を使用し、子宮を水槽やインキュベーター(保育器)のように使えば、妊娠が不可能ではないそうだ。
長谷川さんはこのアイデアを別作品で昇華させている。