スポーツエリートだけではない 部活動でもオーバートレーニング症候群になる可能性

 まもなく新学期がはじまる。新1年生は部活動の選択も重要な課題だ。運動部を選んだら(諸君は)新しい環境の練習が体力に見合っているかを 是非気にかけて欲しい

山下祐司| Photo by Getty Images,Yuji Yamashita

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問題は負荷と回復のバランスが崩れること

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オーバートレーニング症候群はスポーツエリートだけが発症するわけではない
【写真:Getty Images】

 オーバートレーニング症候群――。不幸の前兆のような響きがあるこの病気は、サッカー界に時折顔をのぞかせる。昨年8月にも元日本代表で長年FC東京のゴールマウスを守ってきた権田修一(SVホルン)がこの診断を受けたと発表された。

 オーバートレーニングの名前から、激しい練習で自分を極度に追い込むスポーツエリートだけがこの病気を発症すると思うのは大間違いだ。

 特別にハードではない通常の練習を続けていても、その時の体にとって過度な負荷になっているのならオーバートレーニング症候群になる可能性がでてくる。学校の部活動でも起こりうる病気だ。

 国立スポーツ科学センターのセンター長で内科医の川原貴さんは「トレーニングが過剰になってパフォーマンスが落ちたまま容易に戻らないのがオーバートレーニング症候群です」と説明する。

 川原さんはこれまでに数百人の治療にあたってきた日本におけるオーバートレーニング症候群研究の第一人者。長年、日本体育協会のスポーツ診療所で外来診察を担当してきた。川原さんは続ける。

「身体機能のアップに強い負荷は必須ですから、ハードなトレーニングが問題なのではありません。ただ、認識しなければならないのはトレーニング自体が体を破壊し、消耗させる行為だということ。

 身体機能の向上はトレーニングから体が回復するあいだにおこるので、回復がなければただ身体を痛めつけているだけです。負荷と回復のバランスが崩れることが問題。この状態が続くとオーバートレーニング症候群になります」

 スポーツの技術と身体機能の向上には欠かせないトレーニングは、見方をかえると、さまざまな方法で身体に“ダメージを与える”行為でもある。しかし、トレーングを続けられるのは、休息で回復するからだ。

 トレーニングのダメージで身体の機能が一時的に低下するので疲労を感じるようになる。それでも休息によって機能が回復し、疲労感もなくなる。トレーニングの負荷と回復のバランスが問題なければ1、2日、長くても数日の休息で体は回復する。日々のトレーニングの繰り返しはダメージと回復の繰り返しでもある。

 しかし、回復が不十分なままのトレーニンブを続けると、疲労感はとれるが実は体の回復が追いついていない状態に陥ってしまう。疲労感と実際の体の疲労状態にズレが生じるわけだ。

 疲労感がないのに体のダメージが残っているこのときにトレーングを続けると体はダメージをさらに抱え込み、蓄積がおこる。この悪循環が進むとパフォーマンスが落ちたまま、なかなか戻らないオーバートレーニング症候群になってしまう。川原さんは説明する。

「オーバートレーニング症候群ではパフォーマンスが低下しますが、同時に回復力の低下も起きています。回復力の回復をまたずにトレーニングすると悪化の一途をたどります。

 普段、強度の高いトレーニングが可能なのは、身体の消耗に見合った回復力があるからです。でも回復力が戻ってこなければ、トレーニングは有害以外の何者でもありません」

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