スポーツエリートだけではない 部活動でもオーバートレーニング症候群になる可能性

 まもなく新学期がはじまる。新1年生は部活動の選択も重要な課題だ。運動部を選んだら(諸君は)新しい環境の練習が体力に見合っているかを 是非気にかけて欲しい

山下祐司| Photo by Getty Images,Yuji Yamashita

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特有な症状がないオーバートレーニング症候群

オーバー
国立スポーツ科学センター センター長 
川原貴氏
【写真:山下祐司】

 米国でははやくも1923年からオーバートレーニング症候群の報告がみられるが、日本では1980年代から。大きくクローズアップされたのは1999年だった。

 史上最年少の高校2年生、17歳ながらフル代表として韓国戦に先発出場した記録をもつ、当時清水エスパルスに所属していた市川大祐(ヴァンラーレ八戸)が発症したときだ。

 日本がはじめて出場したW杯の直前に、カズや北澤豪とともに日本代表からはずされた市川がオーバートレーニング症候群にかかったことで、その名が広く知られるようになった。
 
「オーバートレーニング症候群の診断にはいろいろな考え方があります。私は軽症も含めています」と市川選手の診断にも関わった川原さんは語る。

 軽症はハードトレーニングが難しいが、負荷の低い運動ならできるレベル。軽いトレーニングすら辛くなり、疲労感が残ったままで日常生活に支障が出始めるのが中等症。重症になるとトレーニングはおろか、生活がままならなくなり、入院するケースもある。

 治療には軽症や中等症だと数週間から3ヶ月ほど、重症になると3ヶ月から場合によっては6ヶ月以上の期間がかかる。

「診察に訪れるのは中等症状がほとんどで、重症化するケースは極めてまれです」
川原さんの経験では、多いときは年間40人以上を診察し、10数年にわたる経験で、重症になったのは10人に届くかどうかだったという。

 トレーニングが過剰になってパフォーマンスがなかなか戻らないのがオーバートレーニング症候群の特徴だが、同時にさまざまな症状があらわれる。動悸や息切れ、手足のしびれなどの身体的な症状から不眠や不安、憂うつなどの精神的な症状まで幅広い。

 オーバートレーニング症候群だけにみられ、クリアに診断できる症状はない。また、競技や種目を選ばず起こる。

 タイムの変化で体の状態をつかみやすい陸上競技や水泳、トライアスロンや同じく数値が指標になるウェイトリフティング、球技ではサッカーの他にもバスケットボール、バレーボール、また体操や空手での報告もある。

 ただし、オーバートレーニング症候群の症状があるからといって勝手に“診断”して決めつけるのは早計だ。特有な症状がないのがオーバートレーニング症候群。

「貧血や肝機能障害など疲労症状がみられる様々な疾患を排除できてはじめてオーバートレーニング症候群と診断できます。他の病気が隠れている可能性がある」と川原さんは指摘する。

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