他人の痛みは自分の痛み? 痛みを『共感』するメカニズム
自分は傷ついていないのに、誰かがケガをする場面を目撃するとなぜか「痛み」を感じることがある。この現象は気のせいではない。
スポンサーリンクケガなどによる痛みを侵害受容性疼痛と呼び、これは痛みを感じるセンサーである侵害受容器が刺激されて起こる急性の痛みを指す。
これに対し、例えば目の前の友人が傷ついた時に感じる「痛み」は共感疼痛と呼ばれる。
過去のいくつもの研究から、侵害受容性疼痛と共感疼痛のどちらの痛みを受けた場合でも、脳の前島と帯状皮質が反応することが指摘されてきた。
ただし他人の痛みを見た時に前島と帯状皮質で起きる反応は、自分に痛みがないことを自覚すると消滅する。
しかし脳の前島と帯状皮質で起きている反応が、侵害受容性疼痛と共感疼痛で同じ種類のものであるかどうかは確認できていなかった。
前島と帯状皮質は、興奮、怒り、ストレスなどの感情を抱いた時にも反応するからだ。つまり痛みに反応しているのか、痛みがもたらすストレスや怒りに反応しているのかの区別ができなかったのである。
そこで独・マックス・プランク研究所や米・スタンフォード大学などの研究者たちは、痛みをプロセスに分解し、そのプロセスにのみ反応する「マーカー」を調べ、侵害受容性疼痛と共感疼痛に共通する部分があるのかどうかを調査した。
3月1日に認知科学の雑誌『Trends in Cognitive Science』に発表された研究では、過去の痛みと脳の働きの関連性を調べた32の研究を分析するとともに、被験者の腕に多少の痛みを感じる程度の熱を与える(そしてそれを目撃させる)という実験を行っている。
自分の指を金づちで叩いてしまった場合、脳の様々な箇所が反応する。例えば感覚皮質も反応を起こすが、何かに触れた場合でも反応するのでこの反応はマーカーとして使えない。
また前頭葉眼球運動野も反応するが、こちらも予期せぬ出来事に注意を向けた場合に反応するので同じくマーカーにはならない。
こうして分析を重ねた結果、脳の前島と帯状皮質の一部に起きる活性化のパターンが痛みに特有のもの(怒りやストレスでは起こらない)で、かつ侵害受容性疼痛と共感疼痛で重なり合っていることがわかった。
また本人が強い痛みを感じている時のほうが、痛みが弱い場合よりも、本人と目撃した人の脳活性化パターンに一致が見られたという。
研究者らはこのパターン一致について、痛みの強さだけでなく、相手との関係性によっても違いが生じると推測している。
例えば子供がケガをするのを見た親と、患者を手術する外科医とでは、明らかに脳活性化パターンは異なるはずだからだ。
痛みと脳の反応の関係には、まだまだ解明の余地があるといえるだろう。
取材・文 岡 真由美
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