伝説マンガ“すげこまくん”が帰ってきた! 『GOD SAVE THE すげこまくん!』が復刊

マッドサイエンス高校生というぶっ飛んだ設定で、時代の先を行ったSFコメディ『GOD SAVE THE すげこまくん!』。そのベストセレクションが復刊された。

川口友万| Photo by Noriko Nagano

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科学は敗れたのか?

すげこま
『宇宙遊園☆フタバハラ』COMIC ZIN
著者:永野のりこ
出版社:永野のりこハウス
発売日:2015/08/16
価格:864円(税込)
【画像提供:永野のりこ】

「311があって、原発事故があって、それを経て、1970年の大阪万博のような夢と共に育った自分が、心底明るい未来を信じていたことに気が付きました」

『宇宙遊園 フタバハラ』は、原発事故で帰還困難区域となった町が舞台の短編だ。

「父の実家が福島県の双葉町で、ほとんど帰還困難区域となって、一族が避難しているんです。その一時帰宅に同行した時のことと、子供の時の福島の思い出をまとめたもので」
 
 幼少の永野さんが初めて福島へ行ったのは、大阪万博の次の年のことだった。

「いろいろあっても、人類の科学の進歩や平和の希求により明るい未来がきっとやってくると、心の底での信じていた自分に気付いて、本当にびっくりしました。バカなお子だよぅ、と」

 そうなのだ。あの日、私たちは信じていたものに裏切られたのだ。

 科学が、このあいまいな世界で唯一正しいはずだった科学が、私たちの信頼を裏切った。それは放射能が多いとか安全とかそういう問題以前だ。私たちは非常に深く、傷ついた。

 誰もいなくなった町。家も畑もそのままで、人だけがいない。津波の被害で廃墟と化した風景とはまた別の、うすら寒い、もうひとつの風景だ。

「マンガに描こうとしたけれど、ハッピーエンドがつかめなくて、未完です。でも、多くの人々にあの風景を共有してもらうことで何かが…とも」

 答えが出ていないですよね、と永野さん。

「帰宅困難地域に残されている猫や動物の救命保護をなさっている太田康介様や、ゲンロンの東浩紀先生や、あの土地の風景が確かにお心の中にある方々とお話した際、強い共感や意思を感じ励まされました」

 ここからどうしていったらいいのか、何を夢見たらいいのかと永野さん。

「『すげこまくん!』でも、その前の作品『みすてないでデイジー』でも、SF、ギャグとして、核ミサイルや核なんやらに多くふれてきましたが、父方の、さかのぼれば幕末からの故郷の土地が住めない場所になったことや諸々に今後どう向き合えばと、ずっと考え続けています」

 永野さんには、その気持ちをマンガや言葉であらわすことが今でも難しい。

「でも、一枚の絵に込めて、とういかたちだったら何かが表せるかもしれない気がして。開田裕治先生ご夫妻から素晴らしい機会を頂けたのもあり、様々なことを絵で試しています。

 先頃開催させて頂きました個展も『すげこまくん!』の復刊もその流れの中の出来事で、またここから描いてゆきたい思いをいただき感謝いっぱいです」

 ポップでキュートな永野ワールドを待つ読者は多いだろう。それは夢かもしれないけれど、約束された明るい未来なんて来ないのだろうけど、でも永野さんの夢は私たちを楽しくさせる。

 すげこまくんや松沢先生のいるクラスにいたかったと思う。それこそが作家の妄想力、私たちに現実を超える勇気を与えてくれるのだ。

取材・文 川口 友万

【了】

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