【食べる科学実験】3分で安売りブロイラーが高級地鶏に? 謎の電気肉を調査せよ 第1回(全3回)

鶏胸肉に電流を流すとおいしくなるらしい? しかも家庭用の100Vで十分、たった3分で劇的に味が良くなるというのだ。都市伝説か? それとも食の革命か? 電気肉の謎を追う。

川口友万| Photo by masahiko taniguchii , Tomokazu Kawaguchi|シリーズ:食べる科学実験

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フランケンシュタインはおいしくなるのか?

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鳥の胸肉にスライダックをつなぐ。大変にものものしい【写真:谷口雅彦】

 肉に電気を流すと言えば、フランケンシュタインだろう。死人をつぎはぎした人造人間は、雷の一撃を受けて蘇る。フランケンシュタインの原作者、メアリー・シェリーは小説のアイデアをある実験から得たと言われている。

 カエルの足に電流を流すと死後にも関わらず、ピクピクと足が痙攣する。1771年にルイージ・ガルヴァーニが発見した有名な実験だ。ちなみにガルバーニは通電実験の最中、電気を流さなくてもカエルの足が動くことを発見、後にその発見を応用してボルタが世界初の電池を発明する。

 電池の発明によって、通電実験はどこでも実演が可能になった。そこでルイージ・ガルバーニの甥、ジョバンニ・アルディーニはいいことを思いついた。叔父の見つけた電気刺激法を人間の死体に応用し、死体を動かして金を集めるのだ!

 1800年代、アルディーニは死刑囚の死体に電気を流し、顔の筋肉を動かして苦悶の表情を作り出し、耳と直腸に電流を流して死体をバタバタと痙攣させた。この死体を動かす実験はいく人もの科学者によって継続されて各地に広がり、それを耳にしたシェリー女史はフランケンシュタインを思いついたのだ。

 電気を流したらスーパーの胸肉が動いた! というなら多少は面白いが、おいしくなるって。フランケンシュタインはおいしいってことか?

 まったく信用していなかったら、ある集まりで『決してマネしないでください。』の作者、蛇蔵さんに挨拶された。理系出身だとばかり思っていたが、蛇蔵さんはバリバリの文系でしかも女性だったので驚いた。あの理系の研究室の異様なリアリティがすべて取材? ありえないリサーチ能力である。

 会うなり、蛇蔵さんが申し訳なさそうに言う。

 「他の人の本とネタがかぶらないようとがんばったんですけど、何をネタにしても『あぶない科学実験』にかぶっちゃって」

 『あぶない科学実験』(http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00CRXX2V2/)というのは私の本で、Youtubeに上がっている実験が本当かどうかを検証するのがテーマだ。なるほど、それはネタがかぶるかもしれない。

 ふと好奇心で聞いてみた。肉に電気を通すってネタですが、試されたんですか?

 蛇蔵さんが苦笑した。

 「いえ、うちにスライダックありませんし」

 (普通はないよな)

 スライダックは変圧用のダイヤル式コイルで、数万円するのだ。ところが、うちにはある。私は都市伝説を実験で検証することをライフワークにしているので、一般家庭に置いていないもの(カルボキシメチルグルコースやトランスグルタミナーゼや丸底フラスコなど)があるのだ。

 やってみます?

 「え?」

 蛇蔵さんがきょとんとした。相手は売れっ子の漫画家であり、以前書かれた『日本人の知らない日本語』はミリオンセラーなのだ。大樹にすり寄る事、風の如し。実験で接待である。通電した肉が賄賂である。なにとぞご贔屓に~。

 そういうわけで、鶏肉の通電実験をすることになったわけだ。

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