【食べる科学実験】電気肉がおいしくなる理由がついに判明! 麻布大学・坂田亮一教授に訊く 最終回(全3回)

電気を流すと肉がおいしくなる、謎の現象“電気肉”。その謎を知る人物、麻布大学獣医学部・食品科学研究室の坂田亮一教授と接触、メカニズムを教えてもらった。

川口友万| Photo by tomokazu kawaguchi , Stephen Ausmus|シリーズ:食べる科学実験

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通電により強制的に死後硬直を終わらせる

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麻布大学獣医学部・食品科学研究室 坂田亮一教授。食肉のエキスパートである【写真:川口友万】

 しかしそこは先生、資料を取り出して私の前に広げた。

 「あなたの言ってるのは、これですよね?」

 プレゼン用の資料には『鶏胸肉の美味しさ向上のための通電装置の開発』と書かれていた。
 
 「前川製作所さんに頼まれて、Eチキン製造システムの試作機を作ったのが2000年の4月期かな。研究発表したことがあってね。最初はかなり原始的ですよね。この時、論文を書いてドイツの雑誌に載せたりね。それで2007年に製品化したのかな」

 肉に電気を通すというのは、食肉業界ではよく知られているんですか?

 「元々、羊に使っていた技術なんですよ。イギリスに羊肉が輸入されるわけですよ、オーストラリアやニュージーランドから。イギリスの植民地でしたから。屠畜してすぐに冷やしてイギリスに送ると、着いた時はカチカチになっているわけですよ」

 でしょうねえ。

 「この肉を解凍しても、肉が軟らかくならない。これをコールドショートニングと言います。そこで考えられたのが電気刺激法なんですね」

 コールドショートニングを防止する技術、それが電気刺激法なのだ。冷凍する前に肉へ通電すると、冷凍後に解凍しても肉が軟らかいままになる。坂田先生はそれを鶏肉に応用した。

 「最近の鶏肉はブロイラーで、大量に処理しますよね?」

 しますね。

 「すぐ骨を外しちゃうんですね。魚と一緒で鮮度を大事にするから。骨が付いた状態で熟成させるというのは、日本ではなかなかやらない。そうすると肉が縮んで、胸肉はバサつくんですよね」

 熟成させる間もなく、死後硬直状態の肉から骨を外し、食肉にしてしまうからだ。

 「日本ではその日の朝に首を落として、夕方までには食卓に上ります。だから胸肉のように脂肪のない肉は、パサパサしておいしくない。欧米の胸肉はもっとジューシーですよ」
 

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アメリカでも電気刺激による鶏肉の熟成は行われ始めている
United States Department of Agriculture Agricultural Research Service【写真:Stephen Ausmus】

 問題は死後硬直。死後硬直した肉を私たちは食べている。だからおいしくいない。もし屠殺から出荷までの短い時間で死後硬直を解除し、熟成を進ませる方法があれば、鶏の胸肉はおいしさ倍増で人気急上昇である。

 「死後硬直が来て、およそ48時間で死後硬直が解除されて肉が軟らかくなるというサイクルが鶏肉のサイクルです」

 通電刺激はこのサイクルにかかる時間を短縮するらしい。

 「だから早く市場に送り出せる」

 すでにEチキン製造システムは大手の食肉メーカーが導入している。そうしたメーカーでは、通電した肉を熟成肉として高めの価格で販売しているという。

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