【変わる覚せい剤使用者】第1回 反社会から一般へ 覚せい剤乱用者の現在(全3回) 

覚せい剤で逮捕された元プロ野球選手・清原和博。彼のような刺青や派手な格好、「いかにも」と思わせる姿から覚せい剤使用者をイメージすると現実を見誤る。

山下祐司| Photo by Getty Images Yuji Yamashita|シリーズ:変わる覚せい剤使用者

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覚せい剤を通して育む仲間意識

覚せい剤
埼玉県精神医療センターで覚せい剤使用者の治療を行う、合川勇三医師
【撮影:山下祐司】

 手軽に購入できて数年前まで話題になっていた脱法ドラックは、2014年に池袋で暴走したRV車が歩行者を次々とはね1人が死亡、6人が重軽傷を負った事故などが発生し、薬事法の改正などが実施された。

 現在では名前が危険ドラッグに変わり、取り締まりが強化された結果、埼玉県精神医療センターでの来院は激減した。しかし、同じく違法であっても覚せい剤の乱用者は減らずに横ばいのまま。その依存性の高さが際立つ結果だ。

 時代の変化の影響を受けているのは覚せい剤の入手方法も変わらない。アングラな情報が集まるインターネットの発達で少なくとも情報収集は簡単になった。第2次乱用期にはインターネットも携帯電話もほとんど普及していなかった。

「昔は友人や先輩、後輩のネットワークが覚せい剤の入口につながっていました。現在は少なくとも情報はインターネットで検索すれば手に入るように。ネットや携帯電話を使って、暴力団などの反社会勢力と直接、接触せずとも手に入りやすくなっています」

 ただし、これはあくまでも変化の一面だという。合川医師は続けて説明する。

「これは表向きの入口が変わっただけです。覚せい剤は個人が簡単に製造できるわけでないので、売人を通した販売システムは強固に維持されています。

 売人から直接手に入れる人もいる一方で、昔ながらのネットワークも健在です。こちらも結局は売人から手に入れています。

 覚せい剤の販売ネットワークは民間の企業のように利益の最大化を目的として合理化されているわけです」

 利用者の様相が変わりつつある覚せい剤だが共通する部分もある。それは覚せい剤を使用して仲間意識を育む点だ。

 第2次覚せい剤乱用期では、家庭や学校を頼れない仲間が集まってシンナーを使う。この“悪事”を共有して仲間意識を高め、自分の居場所を見いだす。それが発展して覚せい剤を使うようになった。

「今は、クラブに行って友達の誘いでなんとなく試してみる。1回くらいなら、という感じで使いはじめエスカレートすることもあります」

 合川医師は「人とのつながり」を求めて覚せい剤を利用する点は変わっていないとみている。

 覚せい剤の一般化の影響は来院者にもみられる。以前のような反社会的で覚せい剤にどっぷりと浸かってから来るケースは珍しくなった。

「比較的軽症な段階で来る人が多く、印象として軽い人が増えているようです。自分でヤバいと思ったらすぐにひとりで来院する。また、家族に連れられるケースも増えています。以前より治療はやりやすい」と合川医師は語る。

 このように、年間の検挙数ほぼ横ばいとはいえ、覚せい剤乱用者は反社会的な人から一般人へのシフトが起こり、その内状は大きく変化している。

取材・文 山下 祐司

【第2回に続く】

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