遺伝子の攪乱を巻き起こす? クローン桜“ソメイヨシノ”に潜む問題とは

開花が進むソメイヨシノに胸を躍らせている人も多い。しかし急激に広まったソメイヨシノが、野生の桜の生態系にある問題を起こしている。

山下祐司| Photo by Getty Images

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広がりやすいソメイヨシノの遺伝子

桜
お花見は楽しみなイベントのひとつ
【写真:Getty Images】

 ソメイヨシノは、野生種のオオシマザクラを父親に、エドヒガンを母親にもつ雑種だ。江戸時代末期に江戸の染井村(現在の東京都豊島区)で売り出され、急激に広がったと考えられている。

 ソメイヨシノは枝をわける接木(つぎき)で増やすため、どの木もすべて同じDNAを持つクローン。だからこそどのソメイヨシノもおなじ時期にいっせいに花を咲かせ、人々を強く引きつける。

 接木で増やすのはソメイヨシノのめしべにソメイヨシノの花粉がついても種はできないから。自家不和合性というメカニズムが働くためだ。

 とっつきにくい名前の自家不和合性は、遺伝子の多様性を守る植物独特の仕組み。同じ花の中に共存するめしべにおしべの花粉がついても種ができない。別の花から飛んできた花粉がめしべにつくと種ができる。

 ほとんどの遺伝子が同じ人間にも個性があるように植物にも個性がある。これを守るのが自家不和合性だ。

 ソメイヨシノの木は自分の花粉や別の木から飛んできたソメイヨシノの花粉でも、DNAが同じクローンなので「他人ではなく自分」と認識され自家不和合性が起こり、種はできない。

 しかし、同じ遺伝子をもつ個体との交雑を拒否するシステムは、反対の見方をすれば別の遺伝子を受け入れやすいシステムといえる。

「野生の桜にとってソメイヨシノの遺伝子は珍しいので集団の中で受け入れられ、広がりやすい。だからこそ野生の桜とソメイヨシノの交雑には注意が必要」と向井教授は語る。

 ソメイヨシノの問題点は、地域に存在しない父親由来のオオシマザクラ遺伝子を別の地域に広げるだけではない。

 野生なら起こりにくい母親のオオシマザクラと野生のヤマザクラと遺伝子もミックスさせるからだ。向井教授は説明する。

「私たちが調べたところ、ソメイヨシノの母親であるエドヒガンは野生にあればヤマザクラと交雑しにくく、エドヒガンとヤマザクラの遺伝子をもつ種はほとんどみあたらない。

 しかし、ソメイヨシノとヤマザクラは交雑して種を残します。このときにソメイヨシノ母親であるエドヒガンの遺伝子が持ち込まれます。本来、交雑しにくいエドヒガンの遺伝子をソメイヨシノが仲介しているのです」

 全国的に広く分布したオオシマザクラといえども、分布の重なっているヤマザクラとの交雑はあまり起きなかった。しかし、ソメイヨシノが交雑を間接的に肩代わりしていたわけだ。

 ヤマザクラやエドヒガンに限らず、他の野生の桜がソメイヨシノと交雑している可能性は十分に考えられる。

 ただし、単純にソメイヨシノを批判することはできない。それは日本人が古くから桜を好んで都市の中に野生の桜を運び込み、人間が生息地を拡大させてきたからだ。

「桜」の文字は日本書紀にみられ、万葉集や古今和歌集でも歌われている。もちろん、その桜はソメイヨシノではなく別の種なのだが。

 自然交雑や人為的な交雑で生み出される、色やかたちの違うさまざまな桜を人々は愛でてきた。とはいえ、ソメイヨシノの拡大がさらに進むのは避けたいところだ。

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