スポーツエリートだけではない 部活動でもオーバートレーニング症候群になる可能性
まもなく新学期がはじまる。新1年生は部活動の選択も重要な課題だ。運動部を選んだら(諸君は)新しい環境の練習が体力に見合っているかを 是非気にかけて欲しい
スポンサーリンク“うつ”とオーバートレーニング症候群の深い関係
オーバートレーニング症候群の精神的な症状のひとつに「うつ」がある。厳しい練習を重ねるからこそ大会で勝利したときに大きな喜びをえられるが、その反面、体のキレが悪くなったり、記録が伸びなければ落ち込むのは容易に想像できる。
メンタルの変化はパフォーマンスにも大きく影響する。オーバートレーニング症候群と「うつ」との関係はどうなっているのだろうか。
「うつ病はまじめで几帳面、責任感が高い人に多いと言われています。陸上の長距離選手にはそういう選手がたくさんいます。なぜなら、そういう性格でなければ毎日走り続けることは不可能だからです。
重症のオーバートレーニング症候群の人にPOMSという心理テストをするとうつ傾向がみられますが、薬を処方しなくてもうまく休むと治るケースが多いです」
川原さんが日本体育協会のスポーツ診療所で週1回の内科外来で診察したときのデータによると1986年~1987年の受診者369人中オーバートレーニング症候群は91名だった。
様々な理由でスポーツ診療所の門をたたくのはスポーツにはげむ高校生から実業団に所属する若い社会人の年齢層が最も多かった。すると、学校の部活動も気になるところ。先生の人数に対して生徒が多い部活動で、生徒たちの状態を把握する大変さを認めつつ川原さんは話す。
「特に身体が急激に発達する中学生や高校生は体格や体力の差が激しい。1年生には軽めにするなど配慮する必要がある。体力がなく脱落する生徒が出てきたら改善すべき点があるということです」
オーバートレーニング症候群は「がんばれ」「努力しろ」などの精神論では治らない。休息とともに練習量を調整できないと悪化する。最悪の場合ではパフォーマンスが戻らず、競技をやめるだけでなく登校拒否になったケースもあったという。
「選手たちが一生懸命がんばろうとするからおかしくなる。軽症で記録に波がでてくると、気持ちにムラがあるとか、要領よく手の抜いていると批判されるケースもありますが、選手にとってはマイナスにしかなりません」
では、保護者は何に気をつけるべきか。疲労と回復の目を向け、先にあげたように子どものコンディションに注意を払うことが重要だという。もし、自分が、または指導する選手や子どもがオーバートレーニング症候群になってしまったらーー。
「治療は十分できます。ただ、同じ環境でトレーニングを続けると再発の可能性が高くなる。トレーニングの内容や計画の見直しをすすめます」と川原さんは話す。
陸上競技や水泳ならタイムという体の変化を知る術があるが、タイムを競わない競技はたくさんある。サッカーもそのひとつだ。
「サッカーはタイムで評価するような明確な指標がありません。身体のキレがなくなる、プレーに身体的な余裕がなくなる、ボールを追いかけるのがつらくなった、バテやすく余力がないと思ったら気をつけて欲しい」
身体機能の向上と技術のアップにハードトレーニングが必要不可欠。だが、体の回復がなければレベルアップが見込めないだけでなく、パフォーマンスも低下する。その状態が続けばオーバートレーニング症候群になってしまう。
だからこそオーバートレーニング症候群を避けるために少なくともコンディションを記録し、回復力を注視できるように心がけたい。オーバートレーニング症候群になってしまったら、休息こそが最大の良薬だ。
取材・文 山下 祐司
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