その高い山に登れ! 「報酬系」で読み解く、夢はでっかいほうがいいワケ
人は喜びを得るために敢えて苦痛を選ぶ奇妙な生き物だ。その欲深さを逆手にとって、さらなる高みを目指すべき理由が、脳内物質を知ると見えてくる。
スポンサーリンク認知脳科学的、夢をかなえる方法
大きな夢や目標を成し遂げたいのであれば、まずはそのために小さい目標をいくつか設定して、段階的にクリアしていくほうがいい。
いきなり出来そうもない目標を立てて失敗すれば、脳は失望感を記憶してしまう。そんなことを繰り返していると、何をするときにも「どうせできやしないや」と諦めが先に立つことになる。
ダイエットに失敗する理由はまさにこれだ。
面白い実験がある。3段階の難易度の異なる課題に取り組んでもらい、正解するたびに報酬を与える。低報酬グループでは1つ正解すれば1セント、高報酬グループでは15セントもらえる。
最もやさしい課題では両グループの正答率にそれほど差はなかった。しかし難易度が上がるほど報酬の効果が見られ、高報酬のほうが正答率も回答する速度も上がった。人はパンのためだけに生きるのではないにしろ、よい結果を出すには報酬は重要だということだ。
何が最高の報酬かは人それぞれ。通帳の残高が増えるのが最高の楽しみという人もいれば、他人の喜ぶ顔が何よりのご褒美という人もいる。
重要なことは、そこで「やったあ!」とドーパミンが出るかどうかだ。最高の報酬が用意されているほどパフォーマンスは上がり、報酬系はそれを記憶して、あなたは次の目標に向かってさらに頑張れるというわけだ。
ここで注意事項を一つ。
ドーパミンが分泌されやすいのは「予測した報酬」に比べて「実際の報酬」のほうが多いときだ。これを予測報酬誤差という。
サルにエサが出てくるパターンを学習させる実験では、最初のうちはエサが出てくるたびにドーパミンが出る。しかし慣れてくると予測できるようになりドーパミンは出なくなる。
サルがこの調子だからヒトならなおさらだ。同じような仕事で成功を繰り返しても、最初は嬉しいものだが、そのうちつまらなく思えてくるのはそのためだ。
小さな目標を達成したら、そこにとどまっていてはいけない。思い切って一つ先の目標に向かって進まなければ、ドーパミンは出なくなる。
そして目標とする山は高ければ高いほどいい。頂点に到達するまでのステップが多いほど、何度も快楽を味わうことが出来るのだから。
参考文献
Influence of motivation on control hierarchy in the human frontal cortex.
Bahlmann J. et al. J Neurosci. 2015 Feb 18;35(7):3207-17.
Dopamine signals for reward value and risk: basic and recent data.
Schultz W. Behav Brain Funct. 2010 Apr 23;6:24.
取材・文 工樂 真澄
【了】