【食べる科学実験】3分で安売りブロイラーが高級地鶏に? 謎の電気肉を調査せよ 第1回(全3回)

鶏胸肉に電流を流すとおいしくなるらしい? しかも家庭用の100Vで十分、たった3分で劇的に味が良くなるというのだ。都市伝説か? それとも食の革命か? 電気肉の謎を追う。

川口友万| Photo by masahiko taniguchii , Tomokazu Kawaguchi|シリーズ:食べる科学実験

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「本当だって! こっちの方が肉の味がする。そんなバカな!」

 友人のカメラマンがスタジオ代わりに使っているアパートに関係者一同、雁首揃えたのはいいが、いざ肉の塊を前にするとまるで食べ物に見えない。

 これじゃ解剖台のカエルだ。ハッキリ言って、食べたくない。

 通電を開始する。蛇蔵さんが眉をひそめた。

 「煙出てますよ?」

 そりゃねえ、電気流しているわけだから。肉にも電気抵抗があるから、発熱するんですよ。電熱線とおなじ……焦げ臭いな。大丈夫か、これ。こんなんでおいしくなるかあ?

 「食品の業者がこういう機械を作って販売しているので、何か意味はあると思うんですよ」

 蛇蔵さんがそう言うのなら、そうなんでしょうけども。さて、これぐらい? これ以上やると中から焼け始めそうなので、止めますよ。

 電極を外し、白ワインと一緒に鍋へ。比較のために通電していない胸肉も並べて入れ、火にかける。蒸し煮にするのだ。10分ほどで火が通る。

 どう? 切ってみようか。だいたいこんな感じ……うん?

 「見た目が違うよ? 見た目が違う」

 切った感じも全然違う。密な感じがする。

 「味が違うといいなあ」

 では食べてみてください。まずは電気を流していない方ですね。

 「味が薄い。逆にこれは肉の味はわかりやすいかも」

 それはすいません。適当に塩振ったからな。……こっちが電気流した方ね。どうでしょう?

 「こっちの方がおいしい」

 うそくさい。

 「本当だって! こっちの方が肉の味がする。そんなバカな!」

 ホントかよ。こっちだろ……あれ? 味が……濃い?

 「同じ鍋で同じ味付けでやったのに、これって、そんなバカな」

 味が違う? なんで?

 全員、食べて味が濃い、全然違うと大騒ぎになった。なんだ、これは? どういうことだ? もちろんプラセボ、暗示の可能性もなくはない。なくはないが、しかし大人が8人もいて全員がプラセボ?

 人間の舌はアテにならない。客観的なデータが必要だった。

取材・文 川口友万

【第2回につづく 更新予定1月11日】


実験した様子。この後、実際に調理して食べたら、味が変わっていた
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